働き方改革による残業抑制のため、今も手探りで業務効率化に取り組んでいる、また効率化を高めたい人もいますよね。
しかし、業務効率化は作業時間の短縮さえ実現すればよいとは限りません。なぜなら当初はうまくいっても、しばらくすると手戻りが増えていたり、思った効果が得られないこともあるからです。長年使用されている業務改善手法を援用すると、こういった失敗を回避でき、成功の確度が高まります。この他にも、業務効率化のポイントや有効なITツールを知っておけば、効果もしっかり上がるに違いありません。
そこで今回は業務効率化の定義とその方法、業務の再構築手法について解説します。改めて確認して、こうした取り組みをうまく軌道に乗せましょう。
業務効率化とは、具体的にどんなことをするのか
業務効率化とは、仕事にかけている労力や時間を短縮したり、もしくは省き、より楽に早く仕事をすることです。簡単にまとめると、仕事に習熟すること、また「ムダ・ムラ・ムリ」を排除する必要がります。
「ムダ・ムラ・ムリ」とは
- ムダ:余計な動作や作業
- ムラ:でき上がりのバラツキ
- ムリ:過大な計画
これらは通称「3ム」「3M」「ダラリ」と言われているとのこと。以下にそれぞれの詳しい内容と解決策を紹介します。
ムダ
ムダは本来、時間や人員、在庫といった余剰資産を抱えることです。ただし、「ムダ・ムリ・ムダ」の観点では「同じ結果を出すうえで省ける作業や動作」を「ムダ」と定義します。たとえば、その都度資料を探しまわったり、作業のたびに社内のそこかしこに行き来するのが典型的ですよね。解決策には整理整頓や、設備・生産財・人員の配置の最適化があります。
ムリ
二番目の「ムラ」は「ムダ」「ムリ」の結果生じるため、先にムリについて説明します。ムリとは手持ちの資源で到底達成できない計画の策定と着手です。例えば、繁忙期の大量作業を通常の人員で回そうとしてもほころびが生じるでしょう。これを打破するには計画の見直しはもちろん、応援を呼ぶ、業務分散を図る、ITツールの活用が考えられます。
ムラ
「ムラ」は「ムダ」「ムリ」の結果生じ、アウトプットの質と量が一定しないことです。作業をやってみるまで、いつ終わるのか、できばえが予想できないのでは納期がきちんと守れるか不安になります。ムラの対策には、手順や作業時間の標準化(マニュアル化)、一人の担当からチーム制の移行が効果的です。
業務効率化のメリット
業務効率化で生まれるメリットは。直接的なコスト削減、生産性向上による競争力強化、業績アップにともなう経営安定の好循環が期待できることです。業務効率化により、以下の良いスパイラルを実現させることもできます。
- 労働時間削減による働き方改革の実現
- コスト削減による利益率向上
- 環境改善による従業員満足度の向上
- 離職防止と生産性向上
業務効率化は、ややもすると経営側のコストメリットに目が行きがちですよね。しかし、うまくすれば労働環境の改善につながり働き手にもメリットをもたらします。その結果、優秀な人材の確保と競争力向上を実現できるでしょう。
身近でできる業務効率化のアイディア
「会社や部門の業務効率化」と力まなくても、まずは自分の周りからプチ改革するのも一つの手かもしれません。ここでは細かいムダ取りや、ムラを撲滅する「見える化」のアイディアを紹介します。
細かいムダ取り
そもそも「ムダ」とは、一つひとつは小さくても積もるとばかにならない反復作業のいわば固まり。業務プロセス全体の設計変更なんて大がかりなものでなくとも、ちょっとしたことから始められます。
例えば、細かい作業の集約化するのがあります。まとまった作業をするときに、集中を妨げがちなのがメールやチャット。都度対応せず、午前・午後に1回と決めてまとめてチェック・処理しましょう。ほかにも、まとめて行ってもかまわない細切れ作業があれば、時間を決めて集中処理するほうが効率的です。
また、テンプレ・ツールの活用でスピードアップできます。報告書や文書作成では、ショートカットキーの活用や、よく使う言葉・フレーズを単語登録すると時短になります。問い合わせ回答や業務連絡など、定型文で済むものはテンプレの作成がおすすめ。社内手続きにフォーム記入が必要なら、いっそExcelマクロを作成し、相手の手間とミス発生を軽減するのも一つの手です。
さらに、抜け漏れ防止にツールを使用しましょう。ちょっと仕事が重なると、うっかり予定を忘れることがありがちですよね。TODOリストやスケジュール表で管理すれば、仕事の抜け漏れを防げるでしょう。ついでに優先順位をつければ、計画的に仕事に取りかかれます。
ツール活用による見える化
社内のメンバーとは、ストレスなくスムーズに業務を進めたいですよね。もしあなたの業務がチーム制で進めているなら、「見える化」ツールの活用で「ムラ」をなくせます。タスクツールやワークフローシステムを活用すると、業務進度が一目瞭然。工程がどこまで進んでいて、誰が今何に着手しているのか、スケジュール通りかまでわかります。これにマニュアルを備えつければ、属人化も防げるでしょう。
業務効率化の手法
方法を考え出しても「もしかすると他にあったかも…」、そんな思いがよぎるかもしれません。実は業務効率化を含めたプロセス改善手法に「ECRSの4原則」があります。これに沿って改善策を考えれば、直感で方法を編み出すよりも効率的になります。
- Eliminate(排除) :不要な工程の廃止
- Combine(結合と分離) :類似業務の統合、規模化にともなう分業(分離)
- Rearrange(交換) :業務の順番/場所/人員の入れ替え、代替案に交換
- Simplify(簡素化) :業務の中のムダ取り、一部自動化による負荷削減
ECRSの「効果量」はE→C→R→Sの順に小さくなり、効果を最大化するため1から4の順に検討するのがセオリーとされます。
E(排除)の典型例は形骸化したルーティンワークの排除で、日報作成や定例会議、定期・一律の顧客訪問などです。C(結合と分離)は似たものをまとめたり、逆に効率化のため仕事を分けることです。部門統合や、業務増大にともなう分業化があげられるでしょう。
R(交換)はいつもの工程を入れ替えることで、既存の要素の組み換えだけでなく、代替案を組み込むこともあります。バラバラに配置されている事務設備を一箇所にまとめるなど、準備や片づけといった付随業務の効率化を目的とする改善です。
S(簡素化)は作業工程の一部を自動化・標準化し、作業負荷を下げます。属人的になりがちな複雑な作業を簡素化し、誰でも安定した成果を出せるようにするのもその一つ。大量の定型事務をRPAロボットで自動化し、必要な場合だけ人が作業する半自動化もそれにあたります。
業務効率化におすすめのツール
業務の効率化には、ITツールが大きく役立ちます。ITツールを活用すれば、作業能率の大幅アップや作業の「ムリ・ムダ・ムラ」も軽減します。
ITツールのタイプは2つあり、既存業務を「間接的」もしくは「直接的」に効率化します。おすすめツールは「進捗の見える化」「自動化/工程簡素化」により効率化を実現するものです。
見える化ツールで業務の効率化を促す
社内の業務連絡に付箋のメモやメールをよく使いますよね。しかし、決裁や承認など回覧をともなう場合、どこまで進んでいるか、滞りはないか、完了までの見通しが不透明で進捗管理がしにくいという問題があります。このような業務を見える化して、効率化を促すには以下がおすすめです。
- ワークフローシステム
- グループウェア
申請・承認プロセスを円滑に進めたいならワークフローシステム、それ以外の定型業務のプロセスもシステム化・進捗管理したいならグループウェアが適しています。
自動化ツールと特化型ツールで効率化
業務を直接効率化するツールに、自動化システムや業務特化型ソフトがあります。それぞれのおすすめツールを紹介します。
近年、定型事務を自動化する「RPA」が普及しつつあります。自動プログラムのRPAは人の代わりにパソコンを操作し、さまざまな作業を代行します。単純な大量反復作業はRPA、それ以外の業務は人が担当するなど、人とロボットの分業をうまく設計し業務の効率化につなげましょう。
最近はクラウドシステムに移行する中小企業が増え、複数のシステムを連携したいというニーズもあります。「iPaaS」なら誰でも簡単にクラウドのシステムを連携・自動処理でき、とても便利。RPAはソフトやWebアプリの画面のレイアウト変更で停止することもありますが、 iPaaSはアプリのAPIを利用するから安心でしょう。
入力項目が多かったり、細かい計算が必要な事務はミスしやすく面倒ですよね。それを専門にする事務員もいますが、自ら処理しなくてはならない雑務もあるでしょう。そんな細かくて煩雑な業務を楽にするツールの代表格は以下です。
- 経費精算ソフト
- 名刺管理ソフト
出張や営業先訪問による交通費精算は本人からの申請が必要です。領収書添付のデジタル化や、利用直後のスマホ申請は手間いらずでとても楽です。月末の申請処理に追われることもなくなるでしょう。
名刺管理の効率化にはデータ化が一番です。名刺管理ソフトなら、基本的にスマホで名刺を撮るだけなので最短5秒で登録処理が完了します。
業務効率化を進めるためのポイント
業務効率化の推進ポイントは「社内の理解」「展開方針」「ITツール」の3つです。
業務効率化をボトムアップで実現するケースがあっても、現場の従業員が目の前の業務に追われているからこそ、業務効率化を推進したいと考えている企業が大半です。その場合、現場で働く従業員から効率化の手段や施策に理解を得られなければ、効率化は進みません。また効率策の導入や展開方針には工夫が必要です。試験導入の評判が良くても、課題を精査しきれずに全社展開すると逆効果になることも。効果検証は慎重に行い、工程変更に戸惑う従業員が出ないよう研修も実施しましょう。
ITツールを活用すれば省力化による時間の余裕が生まれ、そのメリットは非常に高いです。目的が同じツールでも機能はさまざまですが、後々のことを考え、連携性や拡張性も重視するとよいでしょう。
さて、今回は業務効率化の定義とその方法、業務の再構築手法について解説しました。
業務効率化を一言で示すなら、「省力化と時短」です。実現するには「ムダ・ムラ・ムリ」の排除が有効です。業務効率化のメリットはコスト削減のみならず、「時短」→「コスト削減・利益率向上」→「労働環境改善」→「人材確保」の好ましいスパイラルが期待できる点にあるでしょう。
経営工学の業務改善手法「ECRSの4原則」(E[排除]、C[結合と分離]、R[交換]、S[簡素化])を使うと、ムダな工数をかけずに業務を再構築しやすくなります。
さらに業務効率化には各種のITツールも有用です。特におすすめなのは以下です。
- 作業進捗の見える化 :ワークフローシステム、グループウェア
- 自動化ツール :RPA、iPaaS
- 業務特化型ツール :経費精算ソフト、名刺管理ソフト
業務効率化の推進ポイントは「社内の理解」「展開方針」「ITツール」です。現場の理解を得たうえで、全社的な推進政策を展開し、長い目で見て有用なツールを選びましょう。
効率化に限らず、業務改革の取り組みに関しては成し遂げようという気持ちが大事ですよね。そこに科学的な改善手法を取り入れれば成功率がきっと上がるはず。仕事に対する余裕ができれば、社内の雰囲気もよくなって、会社の将来も明るいものになるに違いありません。